MA1-フライトジャケットの魅力を徹底解説!
ミリタリーウェアの中でも、MA-1フライトジャケットは最も象徴的で長年にわたって愛されているアイテムの一つです。1950年代初めにアメリカ空軍向けに開発されたこのジャケットは、機能的なフライトウェアとしてだけでなく、時を超えてファッションシーンにも大きな影響を与え続けています。本記事では、MA-1の歴史、細部にわたる仕様、そしてその優れた職人技について詳しくご紹介します。
MA-1フライトジャケットとは?
数あるフライトジャケットの中で最もポピュラーで、かつ最も息の長い存在がMA-1である。MA-1の開発は1950年代初めに開始されたがベースとなったのはそれまでの正式フライトジャケットの座にあったB-15シリーズである。B-15は1943年に登場したコットン製のB-10を改良発展させたもので、めまぐるしい技術革新や軍用機の発展に呼応しつつ変貌を遂げてきたのである。そうして誕生したMA-1はフライトジャケットの襟を取ると言う最も大きな改良を加えられたモデルで、その背景にはジェット機が開発されそれまでの航空装備の見直しを迫られたからであった。1957年に採用以来、1976年にCWU45/Pが登場するまでアメリカ空軍将兵によって愛され続けた。その間には細かい改良が加えられ、より完成度の高いものとして発展を続けてきたのは言うまでもない。そのスタイルはファッションの世界にも大きな影響を与えており、もはやミリタリーの範疇を大きく超えた存在となっている。
MA-1ジャケットの主なディテール
機能性の高さと優れた着心地を誇るフライトジャケット「MA-1」。それは航空機の発展と共に、改良に改良を積み重ね、進化を遂げてきたジャケットである。ディテールひとつひとつに役割があり、任務を遂行するパイロットにとって最高の一着であったことは想像に難くない。MA-1の開発は1950年代初めに開始され、1950年代中頃に正式採用された。ベースとなったのはそれまでインターミディエイトゾーン(摂氏-10℃~10℃)で採用されていたB-15シリーズである。
B-15シリーズは毛足の長い大きなムートン襟を携えており、そのフォルムはMA-1とは明らかに異なっていた。1947年、米陸軍航空隊(U.S. ARMY AIR FORCES)が解体され、正式に米空軍(U.S. AIR FORCE)とした独立した頃、軍用機はそれまで活躍していたプロペラ機からジェット機へ移り変わった。最大速度1,000km/hを超えての飛行が可能になったため、航空整備の見直しが必要となり、レザー製の薄いヘッドギアからハードヘルメットへ移行。しかし、大きな襟がヘルメットに干渉してしまうことから、フライトジャケットの見直しを迫られたことがきっかけとなり、大きなムートン襟からリブニットの襟へ変更され、B-15シリーズのモディファイモデルが誕生したのであった。こうした背景からMA-1はリブニット襟となり、新型フライトジャケットとして登場した。
1. アウターシェル – ヘビーナイロンツイル
外側の素材のこと。ナイロン製でカラーリングは軍規定色のセージグリーン。36本の長繊維を一本の糸にした、ヘビーナイロンツイルという頑強な生地を使用。経70デニール、緯200デニール(デニールは繊維の太さを表す単位で、9,000mで1gの重さがあるものを1デニール)で構成されている。またその生地の密度は、1平方インチ(6.45平方センチ)に縦240本、横80本の糸で織られており、強度と適度な柔軟性のある生地に仕上がっている。
2. ライニング – レスキューオレンジのリバーシブル仕様
裏側の素材のこと。表地と比較して軽量なナイロンツイルを使用。初期型はアウターシェル、ライニング共にセージグリーンであったが、中期型(MIL-J-8279D)よりライニングカラーはレスキューオレンジに変更され、リバーシブル仕様となった。それは非常時に緊急脱出する際にパラシュート降下し、味方から発見されやすくするための策である。また、それまで背裏に付けられていたラベルはスラッシュポケットの内部へと変更された。1978年にMIL-J-8279Fとして改良されると、その使用目的が変わり、MA-1は地上整備員(グランドクルー)用として支給された。ここで厳密にはフライトジャケットではなくなり、ライニングのカラーもセージグリーンへと戻る。
3. オキシジェンタブとユーティリティポケット
フロントジッパー脇の身頃中央部(左身頃側)につけられた、酸素マスクのホースをクリップで固定するためのナイロン製タブ。写真はMA-1初期型(MIL-J-8279) のオキシジェンタブ。MIL-J-8279Bになるとこのタブは排除される。
4. インターライニングとICSコード用ループ
インターライニングとは、アウターシェルとライニングの間に入る防寒性・保温性を高める目的の中綿素材。ウール58%・コットン42%の比率で織り上げたウールパイルで、コットン地にウールを植毛したもの。着用により汗が蒸発することでウールパイルが縮み、着用ごとに身体に馴染んでくる。
下の写真右側に見えるのがICSコード用ループ。両脇下に付けられた機内通信システムのコードを留めるためのフラップで、MIL-J-8279Bになると排除される。
5. ウインドフラップ
フロントファスナー部からの風の侵入を防ぐためのディテール。最初期型(MIL-J-8279)は上部が角ばっているが、顎に干渉するという理由からMIL-J-9279A以降、丸みを帯びたデザインとなる。ウインドフラップ内のインターライニングを固定するため、ジグザグにステッチが入っている。
6. ユーティリティポケット
写真はMA-1初期型(MIL-J-8279)のユーティリティポケット(シガレットポケット)。ジッパー付きでタバコケースほどの大きさを持つ左袖のポケットには、ペンを4本収納可能。ペン先で生地が破れないよう、ペンキャップのプロテクターが装備されている。
7. ジッパー
フライトジャケットを構成する上で最も重要な役割を果たしているのがジッパーの存在である。ジッパーは納入するコントラクターや契約時期によって異なるが、製造方式、務歯(むし)の設計、スライダーのロック機構、デザイン等、どれを取っても他のファスナーメーカーと大きく異なるのが写真のCROWN(クラウン)。引き手を離すとバネの力で戻り、引き手裏の片爪が務歯と務歯の間に入り込んで自動的にロックされるスプリング・カムロック式ジッパーという独自の機構を生み出した。また大きい引き手にタブも付いて、グローブを着用していても容易に開閉できる。独自のロック機構を持つCROWNであったが、製造の困難さやコストの問題などで1960年代末には、より安価に製造できる他社製のジッパーに市場を奪われることとなった。リバーシブルとなったMIL-J-8279Dのジッパーは、引き手が表裏にあるバタフライ型のリバーシブル仕様である。
8. メインポケット
左右の腰に配されたポケット。MA-1の採用当初は同時期に採用されたライトゾーン用フライトジャケット「L-2B」と外観上の判別ができるよう、MA-1はフラップ無し、L-2Bがフラップ付きであったが、ポケットの中に物を収納しても落ちにくいよう、MIL-J-8279Eからフラップ付きとなった。
また、ポケットの内側はレーヨン65%、ウール35%のダブルフェイスの生地を使用。ポケットに手を入れた際に暖が取れるよう、ポケットの内側にはウール側を使用している。ライトゾーン用フライトジャケットL-2Bでは、滑りが良く動きやすいようこの生地のレーヨン側をライニングに使用していた。当時、同じ生地を表裏で使い分けていたのは、生産効率をあげるための手段だったと考えられる。
MA-1は1950年代中頃の採用以来、1976年にCWU45/Pが登場するまでアメリカ空軍将兵に愛され続け、現在も地上整備員用として活躍している。パイロットの生命を守るため何度も細かな改良を重ね、より完成度の高いものとして発展を続けてきたMA-1。そのスタイルはファッションの世界にも大きな影響を与えており、もはやミリタリーの範疇を大きく超えた存在となっている。
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